2025年6月18日
良い家とは「五感に優しい家」である
〜人が本能的に求める心地よさを、住まいに宿す〜
住宅とは、単に雨風をしのぐための箱ではありません。家は人生の舞台であり、暮らしの器であり、心と身体を整える「環境装置」です。では、「良い家」とはどのような家なのでしょうか?性能が高い家?デザインが美しい家?それとも価格が手頃な家?
私は経営者として、そして住宅づくりに長年関わってきた人間として、ひとつの結論にたどり着きました。
本当に良い家とは、「五感に優しい家」である。
これは単なる感覚的な話ではありません。人間の本能、脳科学、健康、心理、生理学、建築工学など、多角的に見て「五感に心地よい環境」が人の暮らしに与える影響は計り知れないのです。
今回は、「なぜ五感に優しい家が良い家なのか?」を、論理的に紐解いていきます。
1. 人間の判断の9割は「五感」から
私たちは理性的に行動していると思いがちですが、実際には9割以上の判断が「感覚=五感」を通してなされています。見る、聞く、触れる、嗅ぐ、味わう──この五感によって、私たちは無意識に「安心」「快適」「不快」「危険」を感じ取っています。
住宅はまさに「五感の受け皿」。その中で最も長い時間を過ごす場所だからこそ、家が人間の感覚に与える影響は絶大です。
- 音が反響して落ち着かない
- 化学物質の臭いが残って頭痛がする
- 冬は足元が冷えて不快
- 目に入る景色がチグハグで疲れる
- 触れる素材が冷たくて無機質
こうした「微細な不快」は、五感を通じて脳と身体にストレスを与え、知らず知らずのうちに「住みにくさ」や「疲れ」を蓄積させます。
2. 脳は「自然なもの」を心地よいと感じる
脳科学の研究では、自然素材や木の香り、太陽の光、風の流れ、水の音など、自然環境に近いものに人間は安心感や幸福感を覚えることがわかっています。
これは、私たち人類が進化の過程で、数百万年の間「自然の中で暮らしてきた」ことに起因します。コンクリートやビニールクロスに囲まれた暮らしは、たったここ100年程度。
つまり、「自然に近い感覚」が、最も人間にとって心地よいのです。
だからこそ、家づくりにおいては「自然素材の使用」や「風通し」「光の入り方」「緑とのつながり」「音の反響のコントロール」など、五感に寄り添った設計が重要になります。
3. 五感に優しい家は、健康にもつながる
五感に優しい家は、単に「気持ちがいい」だけでなく、健康にも深く関係しています。たとえば:
- 木の香り成分(フィトンチッド)は、リラックス効果や免疫力向上に寄与
- 日射取得や自然換気に配慮した設計は、湿気やカビの発生を抑え、呼吸器の健康を守る
- 遮音性や音の反響設計は、睡眠の質を高め、ストレスを軽減する
- 柔らかい床材は、足腰の負担を軽減し、子どもや高齢者にも安心
現代の「高性能住宅」では、断熱性や気密性ばかりが注目されますが、それだけでは不十分。性能の先にある「感覚の快適さ」こそが、人の健康と幸福を支える真の土台なのです。
4. コスト以上の価値を生む「感覚の質」
五感に優しい家づくりは、必ずしも高価とは限りません。むしろ、自然素材やシンプルな設計をうまく活用することで、コストを抑えながら高い満足度を実現できます。
私たちの提供する住宅でも、「性能とコストのバランス」を取りつつ、「五感へのアプローチ」をデザインに取り入れた結果、多くのお客様から「とにかく気持ちが良い」「家にいると落ち着く」といった感想をいただきます。
これは、建築家や設計士が持つ「センス」だけではなく、科学的根拠に基づいた五感設計の積み重ねなのです。
5. 五感に優しい家こそが、これからの時代の「豊かさ」
高度経済成長期は、「広い家」「最新設備」「便利さ」が豊かさの象徴でした。しかし、今は違います。
情報過多・ストレス社会の中で、現代人が本当に求めているのは「安心感」や「癒やし」、つまり感覚的な快適さ=五感の充足です。
また、Z世代やミレニアル世代は「自分らしい暮らし」「小さくても心地よい空間」を重視する傾向が強くなっています。この流れは加速するでしょう。
だからこそ、私たちはこれからの住宅に「五感に優しい設計」という価値軸をもっと広げていきたい。テクノロジーだけに頼らない、人間らしい住まいづくりを、社会に提案していく使命があると考えています。
終わりに:感覚が喜ぶ家は、心も体も喜ぶ
「良い家」とは、「五感で心地よい」と感じられる家。
それは、設計や素材、性能、空気感、音の響き、香り、光の入り方──すべてが調和したときに初めて実現します。
五感を大切にすることは、人間らしさを取り戻すこと。
そして、それは何よりも「住む人の幸福度を高める」近道です。
私たちは、そんな家づくりをこれからも追求し続けます。
あなたの暮らしが、五感にやさしくありますように。