HEAD BLOG代表 窪田のブログ

2025年6月20日

「北欧の住まいに学ぶ、心地よい暮らしの本質」

北欧の家や家具、雑貨に触れると、多くの人が「シンプルで温かみがある」「自然と調和している」と感じるのではないでしょうか。実際、私自身も北欧の住文化に触れるたびに、「豊かさとは何か」「家とは何のためにあるのか」を改めて考えさせられます。今回は、北欧の住環境に対する考え方とその背景にある暮らし方の哲学について、ロジカルに掘り下げてみたいと思います。


1. なぜ北欧の住まいは「五感に優しい」のか?

北欧の住空間が「五感に優しい」と感じられるのは偶然ではありません。これは厳しい自然環境と密接に関係しています。たとえば、冬は日照時間が短く、気温も氷点下。そんな環境下では、家の中こそが家族の中心であり、人生の大半を過ごす場となります。だからこそ、北欧の人々は「家をただの住処ではなく、心と身体を癒す場所」として位置づけているのです。

それが空間デザインにも表れています。木、羊毛、リネンといった自然素材をふんだんに使い、柔らかな照明や静かな色使いで心を落ち着かせる。家具も人間工学に基づいたシンプルで機能的な形状が多く、「使っていて疲れない」ことが追求されています。視覚、触覚、嗅覚、聴覚、そして体感温度。全てにおいて「やさしさ」を意識した住まいが、北欧には根付いています。


2. 「長く使う」ことへの価値観

日本では新築信仰が根強く、「家は30年で建て替え」という意識が未だに存在します。しかし、北欧では家も家具も「世代を超えて使う」ことが前提です。これは単なる経済合理性だけでなく、「愛着を持って丁寧に暮らす」ことへの価値観でもあります。

例えば、フィンランドの住宅政策では断熱性・気密性の高い住まいが標準であり、省エネ性能も極めて高い。そのため、何十年経っても性能が落ちにくく、資産価値も維持されます。また、北欧デザインの家具は、流行に左右されず「時代を超える美しさ」があります。結果的に、「買い替える」のではなく「手入れして使い続ける」暮らしが日常となっているのです。

これは「持続可能性」という視点でも優れており、環境負荷の低減にもつながっています。


3. 小さな家でも豊かに暮らす知恵

日本では広さ=快適さという価値観が根強い一方で、北欧では「小さな空間をいかに快適にするか」に知恵が注がれています。収納の工夫、可変性のある間取り、動線の最適化など、空間に対する意識が非常に高いのです。

スウェーデンの集合住宅などでは、共用の洗濯室やキッチンが当たり前にあり、住民同士がシェアする文化も浸透しています。つまり「個人がすべてを所有する」のではなく、「必要なものを必要なだけ」共有・共存する価値観が、都市型住宅にも反映されているのです。

これは、今後の日本の住まい方にも大きな示唆を与えてくれます。人口減少と空き家の増加、住宅ローン負担の増大といった課題を抱える日本こそ、「小さく、賢く、豊かに暮らす」北欧の発想を取り入れるべき時期にきているのではないでしょうか。


4. 家を「暮らしの器」として考える

北欧では、家は「作品」でも「財産」でもなく、「暮らしを育む器」として考えられています。毎日の食事、家族の会話、ひとりの時間、季節の移ろい。そうした当たり前の日常を丁寧に包みこむための空間が、家なのです。

そのために必要なのは、豪華な装飾や最新の設備ではなく、「自分たちらしく過ごせる空間設計」。たとえば、窓から見える自然の風景をどう切り取るか、光と影がどう移ろうか、椅子に座ったときの目線の高さがどう感じられるか。そうした細部にまで配慮された設計思想が、暮らしの質を決定づけていきます。

これは、私たち日本の住まいづくりにも大きく通じる部分です。機能や間取りを優先しすぎるあまり、心の居場所を見失ってはいないか。北欧の暮らしは、そのことに静かに警鐘を鳴らしてくれているようにも感じます。


5. 結びに:北欧から学ぶ、これからの日本の住まい

北欧の住まい方には「自然との共生」「長く使う」「小さく豊かに」「五感を大切にする」「家は暮らしの器である」といった明確な哲学があります。それは、モノを減らすミニマリズムでも、単なるデザイン志向でもありません。日常を大切にし、今ある暮らしを楽しむ姿勢の表れなのです。

これから日本が目指すべき住まいとは、単に高性能・高機能な家ではなく、「住む人が自分らしく、生き生きと過ごせる場所」であるべきだと私は考えます。そのヒントは、北欧の静かな日常の中に、たくさん隠されているのではないでしょうか。

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