2025年11月5日
五感が心地よい家を作るには・・・
木の家の本当の魅力と向き合う
家づくりを考えるとき、「木の家が好き」という方は多いと思います。木の香りに包まれる心地よさや、無垢材ならではのあたたかみ。自然素材がもたらす癒やしの空間は、私たち日本人の感性にとても合っています。しかし一方で、木の香りをあまり好まない方もいますし、木の持つ特性を「扱いにくい」と感じる方もいらっしゃいます。
木は自然の恵みそのものであり、いわば「生きている素材」です。湿度や気温の変化によって伸び縮みしたり、時の経過とともに日焼けして色味が深く変化していきます。柔らかい素材のため傷がつきやすく、掃除もしにくいと感じることもあるでしょう。しかし、これらの変化は決して欠点ではありません。木は呼吸し、環境に合わせて姿を変えながら、そこに住む人の暮らしに寄り添ってくれるのです。時を重ねることで味わいを増し、家族の歴史とともに成長していく。そこに木の家ならではの魅力があるのです。
とはいえ、それを「味わい」と感じるか「不便」と感じるかは人それぞれです。だからこそ私は、家づくりの出発点として「自分にとって五感が心地よいと感じる暮らしとは何か」を大切にしてほしいと思っています。素材の香りや手ざわり、光の入り方、風の通り方、音の響き——これらはすべて、住まいの快適さを左右する大切な要素です。
近年、住宅は高断熱・高気密化が進み、性能面では大きく進化しています。しかしその反面、窓を少なくする設計や外気を遮断する構造が増え、自然の風や香りを感じにくくなっていることも事実です。24時間換気システムが常時稼働していても、窓を開けて風を通し、空気を入れ替えることの心地よさは何ものにも代えがたいものです。自然の風が通り抜ける家こそ、本当の意味で「呼吸する家」といえるのではないでしょうか。
また、匂いや空気の質を大切にされる方には、調湿性や脱臭性の高い自然素材を適材適所に取り入れることをおすすめします。たとえば漆喰や珪藻土、無垢材の床や壁などは、室内の湿度を自然に調整し、空気を浄化してくれる力を持っています。寝室やリビング、玄関など、長時間過ごす場所にこそ、このような素材を活かすことで、清々しい空気に包まれた暮らしが実現します。
家づくりに「正解」はありません。性能を重視する人もいれば、デザインや素材感を大切にする人もいます。重要なのは、どんな家が“自分たち家族にとって心地よいか”という視点です。木の香りや変化を愛おしく感じる方もいれば、よりメンテナンス性の高い素材を選ぶ方もいます。どちらも間違いではなく、それぞれの「快適さ」があるのです。
家はモノではなく、家族の感性を育てる“場”です。
季節の光や風を感じ、木の香りや温もりに包まれながら、心と体がほっと安らげる空間。そんな五感に優しい家こそが、長く愛され、住み継がれていく家だと思います。
どうかこれから家づくりを考える皆さまには、性能や価格だけでなく、自分の五感が「気持ちいい」と感じるかどうかを大切にしていただきたいと思います。そして、その感性に合った素材や設計を、信頼できるつくり手とともに見つけてください。
その選択が、きっとこれからの人生をより豊かにしてくれるはずです。