HEAD BLOG代表 窪田のブログ

2025年8月1日

引き算建築とは?

引き算建築とは、「足す」のではなく「引く」ことで、空間の本質や美しさ、使いやすさを際立たせる建築思想・設計手法のことです。日本建築に深く根付いた美意識でもあり、現代では「ミニマリズム」や「余白の美」とも呼応する概念です。


◆【1】引き算建築とは何か?

◉定義

引き算建築とは、建築において「無駄を削ぎ落とす」ことで、空間や素材、光、風、人の動きを最大限に生かす設計手法。
「足して豪華にする」のではなく、「引いて際立たせる」──その思想が根幹にあります。

◉代表的な要素

  • 装飾を極力省く
  • 必要最小限の構成要素で機能を満たす
  • 自然素材や素朴な質感を大切にする
  • 余白や空間の“間”を活かす
  • 景観や自然との調和を優先する

◉日本建築との関係

日本の伝統建築には、すでにこの思想が息づいています。

  • 畳・障子・縁側などの「簡素な構成」
  • 茶室の「侘び寂び(わびさび)」の精神
  • 書院造や数寄屋造の「間」や「非対称性」

◆【2】なぜ今、引き算建築が見直されているのか?

理由①|過剰な消費・情報社会への反動

スマホ、SNS、買い物、情報……「足し算の社会」に疲れた人が増え、心を静める“余白”が求められている。

理由②|暮らしの「本質」や「質」への回帰

持ち物を減らす“ミニマリズム”と共鳴。
「何が本当に大事か」「快適とは何か」を問い直す時代になった。

理由③|環境への配慮

大きな家・豪華な資材はコストもエネルギーも大きい。
小さく、少なく、でも豊かに──SDGsやサステナブルな考え方と一致する。

理由④|高騰する建築コスト・物価への対応

限られた予算の中で「豊かな暮らし」を実現するには、余計な部分を削ぎ落とす知恵が必要。

理由⑤|人間関係・生き方の「距離感の見直し」

空間に余白があると、心にも余白ができる。
引き算建築は、家族や自分との“ちょうどいい距離感”をつくる。


◆【3】引き算建築の“意義深さ”とは?

  • 空間や暮らしの“核”が見えてくる
    → 何を大切にしたいのかが浮かび上がる。
  • 素材や自然の美しさを引き出す
    → 光や風、木材や土の質感が際立つ。
  • 心が整う空間が生まれる
    → シンプルな空間は、人の心にも静けさを与える。
  • 「足るを知る」豊かさを感じる
    → 豪華さより、静かな満足感が得られる。
  • 設計者の思想や哲学が伝わる
    → 単なる建物でなく、「考え方」そのものが暮らしに溶け込む。

◆【4】引き算建築の是非について

◉メリット(肯定的側面)

  • シンプルな美しさ・時間に耐えるデザイン
  • ランニングコスト・維持費が少ない
  • 無駄がなく、動線が合理的
  • ストレスの少ない空間構成
  • 自然と調和しやすい

◉デメリット(注意すべき点)

  • 「削りすぎ」で快適性や利便性が損なわれる危険
  • 合理化が“冷たさ”に感じられることもある
  • 施主が「足りない」と感じる可能性(収納や設備など)
  • 設計者の力量に左右される
  • 一見して“価値”が伝わりにくい(豪華ではないため)

◆【5】結論|是か非か?

「是」── ただし、“哲学”と“技術”が伴えば

引き算建築は、単なる“デザインの引き算”ではなく、「どう暮らしたいか」「どう生きたいか」を考える、人生設計そのものです。

だからこそ、

  • 住む人の価値観が合っているかどうか
  • 設計者の想像力と設計力が十分にあるかどうか

が問われます。

引き算建築は、「美」や「機能」を削るのではなく、
「暮らしの本質を浮かび上がらせるための、知的な選択」です。

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